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極道さと平凡さの対比、そして可笑しみと物語性の両立 ― 火ノ鹿たもん『花の任侠物語しずか(1)』

『花の任侠物語しずか(1)』

静花(しずか)は普通な生活に憧れる、極道の一人娘。家庭の事情で小中学校にはほとんど通えなかった彼女はついに高校に通えることになった。ただ、彼女が思い描く「普通な生活」はどこかズレていて――。芳文社『まんがタイムジャンボ』連載作品。作者・火ノ鹿たもんは今作が初の単行本作品となる。

この作品の面白さはまさにしずかにあろう。友達とやりたいことは花札、盃事、拳銃の見せっこ。交わす会話に時々にじみでるドスの効いた言い回し。自身を襲う野球ボールやチョークは弾丸のごとく避け、射的は百発百中、仮装での着物は完璧にに着こなす。思考、発言、行動のそれぞれにあらわれるしずかの極道の娘としてのキャラは、堅気の級友や教師からは特異なものとして受け止められる。しかし、しずか自身はそれが当然のこととして染みついているのだろう、他者から特異だと受け止められていることに気づかない。ここにおいて示される、極道の普通とカタギの普通の対比、そしてしずかの自己像と他者が捉えるしずかの像との対比が、しずかの学校での言動を面白可笑しく演出しているのである。

しずかは家庭の中でも異彩を放つ。コワモテの舎弟に指を差し出させてネイルアートをし、刺青には少女漫画風の落書きをし、盃や日本刀はビーズでデコる。加えて、組の親分でもあるしずかの父はとても親バカで、しずかの言動を全肯定する。そんなしずかと親分に舎弟たちは振り回されつつ、しかし親分のお嬢たるしずかを支え、見守り、また組の紅一点たる彼女にいい格好を見せようとする。極道に囲まれた中でしずかが普通の女の子のように振る舞うことによって極道と堅気の差異が示され、その差異が可笑しみを生んでいるのである。同時に、しずかの周囲の人々は彼女の振る舞いを肯定していると言える。

ここで強調したいのは、しずかの「私は普通の女の子だ」という自己像は高校でも家でもブレていないこと、それにもかかわらず差異による可笑しみが生まれている点である。これを色に例えれば、高校は青、家は赤、そしてしずか自身は紫といったところだろう。そして、しずかは高校の級友から見れば赤っぽく見え、家の舎弟から見れば青っぽく見え、しかし自身のことは常に紫だと思っている、と言えるだろう。すなわち、作者はしずかのキャラを状況に応じて変えるのではなく、高校および家庭という複数の状況を用意することによって、同じキャラからいくつもの可笑しみを引き出していると言える。

こうして、周囲から肯定され、そしてブレることのないしずかのキャラが礎となって、彼女の日常物語は可笑しくも安心した読後感となっている。初めてのハンバーガーショップに友達の家での勉強会、そして風邪なのに無理して登校した日。普通のお作法を知らず不安を感じるしずかは、しかしこうした出来事を通じて普通とはどのようなものであるかを獲得していく。その過程において、しずかの行動が咎められることはあれど、人格(=キャラの原義!)が否定されることは決してない。極道の娘と普通な生活に憧れる女の子。作者はしずかの持つ二つの対極的なキャラを、可笑しみと物語の両方から巧みに描いているのである。

極道さと平凡さの対比、そして可笑しみと物語性の両立。キャラが立っている4コマ、そしてストーリー4コマが市民権を得た昨今において、本作はそのお手本とでも言うべき丁寧な作品である。ぜひ、その巧みさ、そして面白さに触れてほしい。

おとなり感想

普通じゃないからこそ普通に憧れる。静花さんほど浮世離れした環境で育ってきていると、やはり一般的な学校生活とか家庭環境とかは相当珍しいようで、それが故の反応が色々と初々しくて微笑ましくも可愛らしく見えてきます。

極道の娘(おんな)は可憐にて候 『花の任侠物語しずか』 1巻 - 謎鳥

箱入り娘というジャンルはどうにも我々の心をかき乱す何かがあるようで、そういうキャラというのは枚挙に暇が無いレベルですが、それでも893の娘で箱入り、というのは中々類を見ない存在です。そのせいで一般生活でも893的勘違いをすると言う場面も多く、それを見るにつけこの子、ちゃんとやっていけるのだろうか。と思わされますが、周りの暖かい感じでなんとかやっていけているのが印象的です。

感想 火ノ鹿たもん 『花の任侠物語しずか』1巻 - オタわむれ-日々是寝言-

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