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巧みなカメラワークによって実現した「アニメのような4コマ漫画」――眉毛『純粋欲求系リビどる(1)』

『まんがタイムきららミラク』という漫画雑誌がある。『まんがタイムきらら』の姉妹4コマ誌であり、2011年3月に創刊された。「作家たちは、ほぼ全員が漫画初挑戦!!」という大胆な創刊告知と「もっと、自由に4コマを。」という挑発的なキャッチフレーズには、それまでのきらら読者でさえ驚いたことだろう。

「純粋欲求系リビどる」は、そんなミラクに連載されている4コマ作品である。主人公・枕井リヒトはクラスメイトの美少女・井出川しずくちゃんに憧れる男子高校生。彼の目下の悩みは、毎晩悪夢を見ることと、悪夢の朝には身体に謎のアザができていること。そんなある日、彼のクラスに三人の美少女、レン、リク、ルコが転校してくる。放課後、リヒトが屋上で転校生たちの事を考えながら物思いに耽っていると、突然、彼の身体のアザから悪夢の中の化け物が現れ、彼を襲い始める。もうダメか、というところで彼を助けに現われたのは、キワドいユニフォームに身を包んだ三人の転校生。話を聞くに、彼女たちは人のリビドーを摂取して生きる存在であり、リビドーが強すぎるリヒトを守るためにやってきた、と言う――。あらすじだけ見ても、従前からの「ドキドキ☆ビジュアル」を体現した作品であることが分かる。そして、深く読んでいくと、そこにはこれまでにはない、ミラクらしい確かな新しさがあることが分かるだろう。この記事の続きではその新しさに迫っていきたい。

さて、「リビどる」の話に入る前に、ミラクの話をしておこう――すなわち「ミラクはいかなる4コマ誌であるか?」 誤解を恐れずに言えば、ミラクは「アニメのような4コマ漫画の4コマ誌」である。ここにおいて「アニメのような」とは何を指すか。ビジュアル性? それもある。掲載作家の多くはイラストレーターであり、作品のコマ内で描かれる絵には美しさや躍動感がある。ストーリー性? それもある。あらかじめ変革性が埋め込まれた作品の数々は、一話一話を読む度に新たなキャラクターの発見がある。しかし、これらのいずれもが、他のきらら系列誌で、そしてきらら系に限らず様々な作品で試みられてきたことである。

では、ミラクを他ならぬミラクたらしめているものは何か? 巧みなカメラワークである。どの視点から、どの範囲を、どの深さで、どのような動きで映すか、というコマ内およびコマ間の技である。この技によって、イラストレーターが持つビジュアル技術が最大限に発揮され、かつ作品のストーリーが効果的に演出される。こうして描かれた4コマ漫画は、まさに「アニメのような4コマ漫画」と言うべき表現の力を持って、我々読者に提示されるのだ。

前置きはここまでにして、「リビどる」がどのように描かれているかを、第一話からいくつかのコマを引いて見ていこう。

『純粋欲求系リビどる(1)』 p.11 左1-2コマ目 『純粋欲求系リビどる(1)』 p.12 右3-4コマ目・左3-4コマ目 『純粋欲求系リビどる(1)』 p.16 左3-4コマ目 『純粋欲求系リビどる(1)』 p.17 左1コマ目 『純粋欲求系リビどる(1)』 p.19 左2-3コマ目

(順に、図1:p.11左1-2コマ目、図2:p.12 右3-4コマ目・左3-4コマ目、図3:p.16 左3-4コマ目、図4:p.17 左1コマ目、図5:p.19 左2-3コマ目。クリックで大きな画像。)

まず、転校生の三人が教壇に並ぶふたコマ(図1)。ひとコマ目、何の変哲もないコマのように見えるが、三人の全身がコマ内に細かく収められていることに注目すべきだろう。普通の4コマであれば、キャラはバストアップなどにより身体の一部のみがコマ内に収められ、かつシンプルな描線で描かれるものだ。しかし、このコマでは、そういったセオリーが踏襲された様子は見られない。これは、ネガティブに見てしまえば、作者がそういったセオリーを知らない、あるいは描くだけの4コマ的技術を持たない、と読めるかもしれない。しかし、ふたコマ目とあわせて読めば、ひとコマ目の描写が必然であることが分かる。ひとコマ目で引いていたカメラは、ふたコマ目で三人にグッと寄り、それぞれの自己紹介を順番に映す。まるで、ヒロインアニメの第一話で、これから活躍するヒロインの姿を印象づけるようではないか!(これが本当にアニメなら、各キャラを映すとほぼ同時にキラキラしたSEが流れそうなものである。)それだけではない。このカメラワークの技は、作者の全身キャラ絵の魅力を最大限に引き出しているとも言える。もはや従前のセオリーに従う必要はない。カメラワークによって、キャラの身体性をいかんなく描けるのだから!

この後も「リビどる」第一話は様々なカメラワークを見せる。リヒトとレンの会話を描いた二本(図2)では、横に並んだ二本の対応するコマで二人を同じ視点から反復的に映し、リヒトの妄想の可笑しさを効果的に印象付けている(ここではレンのみ引いたが、残りの二人についても同様の反復を行っている)。バトルシーンの導入部、変身した三人が登場する一本(図3)では、三人の背後・引きから正面・アップへと視点を切り替えることにより、リクのキックに躍動感を持たせている。バトルが決着した一本(図4)では、三人の姿をコマ内に小さく――これまで見たコマでも十分に小さかったのにさらに小さく――収めることにより、後ろで爆発する化け物のスケールの大きさを演出している。そしてバトル後、屋上で向かい合う三人とリヒトの一本(図5)では、四人を遠巻きに眺める視点――物語外の視点――から、三人を真正面の近くに見据えるカメラ――リヒトの視点!――へと視点が切り替わることにより、読者は一瞬にして物語に引き込まれることだろう。このカメラワークを、キャラの身体性を描くため、そしてストーリーを描き・伝達するための必然と言わずして、一体何だと言うのか!

「リビどる」の「アニメのような4コマ漫画」性をもう一歩踏み込んで言語化するならば、「4コマの各コマを映像装置の固定的な外枠と見なし、映像的演出――コマ内の躍動感とコマ間の連続性――をカメラワークによって実現する4コマ漫画」と言えるだろう。このような試みは、従来の一部のきらら作品でも部分的ながら存在していた(代表的な作品としては「ゆゆ式」が挙げられようか)。しかし、4コマ誌全体としてこのような取組みがなされた――控え目に言っても、このような作品が結果的に集まった――のは、ミラクが初めてである。ここにおいて「リビどる」は、そしてミラクは、4コマ表現の地平を切り開いたと言えよう。この取組みを、私は全面的に支持せざるを得ない。この先にどんな新しい4コマ作品が待っているのか、想像するだけでも胸が高鳴るというものだ。

今月から少なくとも9月かけては、ミラク連載作品の単行本が毎月刊行される。4コマ表現の地平を切り開いた成果が、今まさに花開くのだ。この歴史的な瞬間に、4コマの未来を夢見る全ての者は立ち会うべきだろう。新奇なだけではない進化が、そしてもっと自由な4コマが、ここにある。

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