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いつまでも続くような恋人関係の楽しさと安心感――来瀬ナオ『はるかぜ日和(1)』

来瀬ナオ『はるかぜ日和(1)』

元気中学生・村上太郎くん。この度めでたく、クラスメイトの森下吏南(りな)が彼女になりました。吏南はちょっとクールで素っ気無いところもあるけれど、太郎くんはそんなのお構いなく、吏南のことが元気に無邪気に大好きで。吏南は吏南でクールな裏側でちょっと恥ずかしがり屋だけど、元気な村上くんのことが好きで。そんな二人の日常を4コマ漫画と1ページ漫画で描いた作品。竹書房のWebコミック『まんがライフWIN』連載。

恋人同士だけど態度に温度差がある二人の様が楽しい作品である。なりたてホヤホヤの恋人とは思えないほど、太郎くんは吏南に対して賑やかに積極的だ。吏南に対する愛でもって猪突猛進し、オーバーなアクションで愛を表現する彼の姿には、若々しさと青さが感じられて実に可笑しい。他方、彼を受け止める吏南は恋人とは思えないほどクールに落ち着き払っている。それが彼との温度差を感じさせてくれてこれまた可笑しい。さらに、冷静な男友達・曽根崎くんと天真爛漫な女友達・笹山さんが、凸凹な二人に凹凸とぴったりマッチして、二人の楽しき日々を後押ししている。

そして、温度差はあるが、二人の恋人関係が揺れることなく続いていく様に安心する作品でもある。太郎くんは吏南がクールであることにも全く不安を抱かず、しかし彼女のさりげない愛をちゃんと受け止めている。吏南は太郎くんの元気な愛を時にそのクールさでスルーすることはあっても、決して無下にすることはなく、その元気さを感じ取って喜びとしている。不和もなく、ケンカもなく、友達という良き理解者にも支えられ、二人は仲良き恋人同士としての日々を紡いでいく。唯一、バレンタインデーのエピソードで太郎くんが吏南に対して誤解する場面があるが、その誤解もわずか次のページであっさりと解かれている。

そんな楽しさと安心感がいつまでも続いていくように感じられるのが、今作の最大の魅力だろう。楽しき日々の結果は二人の仲の良さとして刻まれる。その仲の良さに支えられて、次の楽しき日々が生まれる。両者がスパイラル的に働くことで、現在はもちろん、将来に渡っても、二人がいつまでも楽しく仲良き恋人同士でありつづけてくれることを感じさせてくれる。そこに「恋の儚さ」は全く感じられない。太郎くんの言葉を借りれば、「幹みたいにずっと」あり続ける恋がそこにあるのだ。

さて、作者の作品を評する上で欠かせない人物がいる。作者の姉であり、また作者同様に漫画家であるカザマアヤミだ。両者が姉妹であることは、カザマ作品の単行本あとがきにおける「妹」の姿(『ちょこっとヒメ(6)』が分かりやすい)と、この単行本の作者コメントに描かれている作者自画像を比較していただければ一目瞭然だろう。そして、両者の作品を比較すれば分かるように、絵のタッチはとても似ている。また、キャラのノリ、特にハイテンションなノリについても通じるところがある。

両者の作品にいくつかの共通点が見られるのは事実である。しかし、少なくとも男女恋愛もの、あるいはそれに準するものに関しては、両者の作品には決定的な違いが一点存在する。カザマ作品では、男女は恋人同士とはまだ呼べない状態から始まり、その仲を揺らがせなながら恋人という関係に向かっていく。それに対して作者作品では、男女の安定した関係が前提として与えられているのだ。今作では太郎くんと吏南が恋人になったところから物語が始まっている。そして、その関係は他者によっても、また二人自身によっても、作中で決して揺らぐことはない。

男女の安定した関係を作品の前提とすることで、二人のあらゆる言動は報われる。全ての言葉と全ての行動が、二人の幸せな日々の証として刻まれる。そこには相手や自分に対する不信や不安、あるいは二人の関係の崩壊といった悲劇は一切存在せず、また、将来におけるその存在の可能性を感じさせない。そのことがたまらなく心地よく、そして安心するのだ。この点は〈日常〉を描く4コマ漫画という観点から見ても親和性が非常に高い。

今作に限らず、作者の男女もの作品については同じことが言える。同人作品を挙げれば、幼なじみ同士の夏休みを描いた『眩夏モラトリアム』でも、クラスメイト同士のクリスマスの夜を描いた『ホーリィウォーキング』でも、そこにある男女の仲は決して揺らぐことはない。控えめに言っても、崩れることはない。そもそも今作も、元々は作者の同タイトルの同人作品である。ここから、作者自身がいかに安定した男女関係に指向しているかが分かるだろう。そして『はるかぜ日和』は、そんな作者作品の本質を楽しむ上で、またとない作品のひとつであるのだ。

いつまでも続くような恋人関係の楽しさと安心感。元気男子とクール女子の幸せな恋模様。今後も引き続き、二人の日々を追いかけていきたいと思う。

おとなり感想

周囲の視線を全く気にすることもなく、また衒いも恥じらいもなく、吏南大好き! でパタパタと近寄っていく村上君と、喜怒哀楽があんまり表に出ないクールな吏南さん。

性格は全然違う「動」と「静」のこの二人、お互いに補い合っていて実にお似合い。

棘叢庵漫録 初心い恋、微笑ましい恋愛。『はるかぜ日和』1巻

安定感と変動感は来瀬ナオのラブコメで同居する。つまりエロゲーに喩えるならばバッドエンドをけっして迎えることのないFD収録のアフターを前提としておきながら、当人たちにはルート分岐前のういういしくってこちらが声をあげて応援してあげたくなるような恋愛をさせる、という非常に画期的なパターンですねこれは?(バシーン、という音を鳴らして机を叩く)

コーラはおやつに入りません

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