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雑貨屋を舞台に繰り広げられる,躍動感あふれる非現実的な日常と青春物語――ふかさくえみ『ちまさんちの小箱』

住宅街の真ん中にたたずむ手作り雑貨屋「ちまさんち」。この店を訪れた雑貨好きの少女・とり子は,この街の住人が作ったという売り物の小箱に一目惚れ。その人にいつか会えることを夢見て,彼女は「ちまさんち」に通い続けるようになる――。雑貨屋の主人・ちまさん,腐れ縁な幼なじみの少年・雪宮,よくわからない生き物・ハチとポチ,その他雑貨好きな面々とともに繰り広げられる,雑貨屋の日常ファンタジー4コマ作品。芳文社『まんがホーム』での連載が2009年末に終了し,その後作者によって同人誌として刊行された。

本作の楽しさを三つの言葉で言い表すなら〈非現実的な日常〉〈青春〉〈躍動感〉がふさわしい。ちまさんが作った(むしろ命を与えた?)ハチとポチをはじめとする不思議な生き物たちは人語を介し,人語で人間とコミュニケーションを取るのだから,読者から見れば非現実的だ。しかし作中の人間たちは誰もその事には疑問を抱いていない。控えめに言っても,彼らと初対面の時に少し驚く程度である。読者から見れば現実世界とそぐわなく(=非現実的)ても,作中ではそれが当たり前の事として受け入れられている(=日常),という構造がここにはある。そして,ちまさんちという小さく閉鎖的な空間がこの〈非現実的な日常〉を安心感のあるものにし,さらにはそこに並ぶ可愛らしい小物たちが読者を夢見心地へと導くのである。

小箱の人に憧れるとり子と,実はその正体が自分だと言い出せない雪宮くんの姿は,初々しい〈青春〉模様として物語を駆動する。雪宮くんは事ある毎にまわりから正体バラしちゃいなよとつっつかれ,しかしその度にヘタれてしまう。遂にはとり子の友人の女子から「この乙女」とまで言われてしまう始末。その姿は実に可笑しい。一方のとり子は,「小箱王子」への一途な憧れと,不器用ながらも小物をひたむきに作り続ける姿が魅力的だ。それは,ちまさんちで小物仲間たちと楽しそうに話すとり子を見た件の友人が,心の中でつぶやいた言葉「ちょっと安心した」にもあらわれている。そんな二人の想いは本同人誌の描き下ろしにて決着するのだが,それは読んでのお楽しみということにしておこう。

そんな雑貨屋での日常と物語は,その〈躍動感〉あふれるキャラの動きによって演出される。本作を少し注意して読めば,驚きの気づきを表す漫符「Σ」,動きの軌跡線,集中線,そして下から上へ飛び出すような効果線が作中で多用されていることに気づくだろう。これらの技法によって,キャラたちはコマの中を所狭しとにぎやかに,時にはコマを飛び出そうなくらいに大きく動く。その姿に,彼/女たちの日常と物語も実ににぎやかなものとして読者に伝わるのである。

〈非現実的な日常〉〈青春〉〈躍動感〉は本作に限った話ではない。作者のもうひとつの代表作,Flashによるウェブコミック「マルラボライフ」は,科学者少女の実験失敗によって「ハイツマルラボ」の各部屋が様々な世界とつながってしまい,雪男,魔法使い,透明人間などがひとつ屋根の下で暮らすことになる作品である。本作はその設定からして現代SFであるが,「ひとつ屋根の下」という言葉が表す通り,実に日常的な作品である。また,人物相関図を見れば分かる通り,少年少女たちは友情で結ばれていたり,または他の誰かに好意を寄せている。そしてFlashにより,クリックで文字通り動いたり,下から飛び出すように現れるキャラたちは,その躍動感はもちろんのこと,紙の上では実現できない表現としても注目に値するだろう。作者はFlashで培ったこれらの表現を紙の漫画に上手く落とし込んで「ちまさんちの小箱」を描き上げた,と言えるかもしれない。

他にも,これら三点に関して,ケータイコミック作品「よもぎ町パンタグラフ」および同人での長編作品「eyesore」にも触れるべきだろうが,時間の都合で割愛させていただく。なお,前述の「マルラボライフ」は,「ジャンプデジタルマンガ」でのFlash版の配信は既に終了しているが,現在は「みんなのシアターWii」にて自動再生版が配信されている他,作者サイトでは4コマ編を楽しむことができる。また,「よもぎ町パンタグラフ」は,ケータイコミックサイト「ワンコミ」にて配信されている。気になる方はアクセスして欲しい。

同人誌『ちまさんちの小箱』は,たけくま書店通販部COMIC ZIN 通販 および店頭,ならびに作者同人サークル《すこやかペンギン》が参加する同人誌即売会にて入手可能である。直近では明日5月4日に開催される「COMITIA92」に作者サークルが参加する(スペース:展01)。同人誌ということもあり,商業流通する単行本よりもはるかに数が限られているだろう。雑貨屋を舞台に繰り広げられる,躍動感あふれる非現実的な日常と青春物語に興味を持たれた方は,ぜひイチ早く入手して欲しい。

おとなり感想

ふかさくえみ氏の「まんがホーム」掲載4コマの総集編。住宅街にたたずむ小さくても魅力的で、ちょっと不思議な雑貨屋。そこに入りびたる「とり子」を中心に、笑わせつつも作る楽しさ、夢中になる喜びを描く。書き下ろしのおまけまんがにもニヤニヤが止まらない。

COMITIA92 たいらさとさんの Push&Review

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