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子供に対する想像力に支えられた温かい物語――楠美マユラ『お母さんは水の中 ぴよ』

きんぎょとひよこの親子の物語、2年半ぶりの待望の続刊にして全ページ描き下ろし。連載誌『ハムスペ』『あにスペ』が既に休刊していながら続刊が刊行されたことに、まずは作者および編集者を始めとする関係者の方々に感謝したい。続刊ながらも、第一話としてキャラ紹介が掲載されているため、今巻から読んでも問題ないだろう。

今巻は、ひよこの子供心の描写が心を打つ。例えば第二話、きんぎょが読んでいるキャラ探し絵本(ウォーリーをさがせ!のようなもの)に、ひよこが鉛筆で答えをマルつけしてしまうエピソード。ひよことしては良かれと思ってやっているのに、きんぎょはマルを消しゴムで消してしまう。行為を否定されたことにより親切心を否定されたと感じたのだろう、ひよこは絵本を放り投げ、二匹はケンカしてしまう。あるいは第十五話、怖い絵本を読む二匹のエピソード。きんぎょがお昼寝してしまったので一匹で絵本を読み進めるひよこだったが、クライマックスの「ひとりであけるとおばけが出てくるよ」という言葉についに怯えてしまう。「あける」という行為の対象は絵本の中で描かれる扉なのだが、ひよこはそれを絵本のページだと混同したのだろう。いずれも、自己と他者の間、または現実と空想の間に境界線をまだうまく引けない子供の行動原理を的確に描いている。

子供心の的確な描写と併せて、今巻ではひよこの成長も温かく描かれる。友達との「ひみつきち」によって、きんぎょにもナイショの秘密を持つ。苦いコーヒーを平然と飲むきんぎょを見て大人に憧れ、大人たちの行動を真似したお手伝いをする。高い木から下りられないきんぎょたちを助けたくて、言葉ではそれを上手く説明できなくても、必死の行動によって目的を果たす。いずれも、子供という存在に対する想像力(あるいは観察力かもしれない)なくしては描き得ない、素朴かつ具体的な成長描写である。

そう、今巻の魅力はまさに、子供に対する想像力に支えられている。そしてこれは前巻の魅力――きんぎょとひよこという風変わりな親子や、ひよこのおっさんという形容矛盾的なキャラについての、存在の〈異端〉さゆえのドラマツルギー――に通じるところがある。それはすなわち、描かれるキャラに対する想像力である。現在の特質(=characterの原義!)から過去や未来を想い浮かべ、または入力に対する出力を想い浮かべる力である。ここにおいて、今巻と前巻は接続される。創作の根本のひとつとでも言うべき想像力に、この作品の魅力の根源があるのだ。

子供に対する想像力に支えられた、きんぎょとひよこの風変わりな親子の温かい物語。二匹のエピソードをもっと読みたくなったら、公式Twitterにて公開されている4コマを読んだり、前巻を手に取って欲しい。

謝辞

献本を頂きましたイースト・プレスの小林様に深く感謝申し上げます。連載が終わってもなお続刊が刊行されたことを、読者としてとても嬉しく想います。

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生物学的〈異端〉ゆえのひよこときんぎょの親子ドラマ――楠美マユラ『お母さんは水の中』

楠見マユラ『お母さんは水の中』

卵パックの卵から孵った「ひよこ」。最初に見たのは――金魚鉢の中の「きんぎょ」? こうして、お母さんだと刷り込まれたきんぎょを慕うひよこと、その姿に絆されてお母さんのように振る舞うきんぎょの日常をフルカラーの4コマで描く。イースト・プレスの動物漫画誌『ハムスペ』およびそのリニューアルである『あにスペ』にて掲載された表題作を収録。元々は作者の同人作品であるが、単行本に同人誌原稿は収録されていない。なお、『あにスペ』自体は2009年9月に休刊している。

きんぎょが陸上を移動できたり、動物同士が言葉でコミュニケーションしたり、動物たちが道具を使いこなせたりと、絵本のような動物ファンタジー感にあふれた作品。フルカラーで描かれた絵のタッチもどこか絵本的で優しい印象。中でも描き下ろしショートの色鉛筆タッチの絵は特筆で、穏やかに流れる時間を感じさせてくれる。

キャラに目を向ければ、何よりもひよこが微笑ましく可愛い。きんぎょの後ろを屈託なくぴよぴよとついていくひよこの姿は本当の子供のよう。キャラが飛び出す壊れたピアノでは音楽よりもキャラを飛ばして遊んだり、公園ではポールの回りをグルグル回るだけで楽しめたりと、型にはまらずに遊ぶ姿にも子供ながらの想像力を感じる。一方、最初こそ「お母さんじゃない」と言うも、それからはひよこをいつも気にかけているきんぎょの姿は本当の母のよう。公園で出会う他人に戸惑う人見知りなひよこを、優しく諭して勇気づけるきんぎょの姿には、母性を感じずにはいられない。

そう、ひよこときんぎょは、生き物としては子と親ではないにも関わらず、まさに〈子〉と〈親〉である。これを強く感じさせてくれるのがエピソード『おやすみひよこ』である。このエピソードでは、ひよこは自身の下半身が魚のようになり、これで「ずっときんぎょと泳げ」ると、きんぎょと一緒に水の中を泳ぐ夢を見る。私はその言葉に、ひよこが親離れできない子であること、きんぎょとずっと一緒にいたいのだということを思う。そしてひよこの魚の下半身は、二匹が親と子であることの〈証〉だと見る。しかし現実には、ひよこの下半身は魚のようにはなり得ない。ひよこときんぎょの間には生き物としての壁があるのだから。だからこそ、それを夢に見るひよこに、私は「現実で叶わないのならばせめて夢で叶ってほしい」、そして「叶ってよかった」という、祈りと救いにも似た感情が芽生えるのだ。そして、救いの感情とともに、「現実には〈証〉がないけど、二匹は確かに〈子〉と〈親〉なんだ」という想いが、私の中であふれてくるのだ。

今作の面白さの源を小難しく言えば、生物学的な〈異端〉を受け入れている点にある。私はひよこときんぎょだけを見た思いつきでこのようなことを言っているわけではない。今作にはまた、ニワトリになれない「ひよこのおっさん」が登場する。彼は若き日にはロケットを飛ばす夢に向かっていたが、その途中にとある事情で挫折してしまい、以来「何年たってもわしはひよこのまま」だと言う。私には、彼がニワトリになれずにひよこのままであるのは、彼が確かにひよこであった若き日の心の傷をまだひきずっていること、そして、ニワトリは空を飛べないという事実を受け入れたくないことを、その体でもって示しているように思うのだ。そんなトラウマが見え隠れするひよこのおっさんの一言ひとことには、ある種の哀愁が感じられて、事あるごとにその裏側にあるだろうドラマを感じずにはいられないのだ。

きんぎょとひよこも、そしてひよこのおっさんも、生物学的な〈異端〉である。〈異端〉であるからこそ、〈正統〉との差異が強く意識され、そこにドラマが生まれる。そして、彼ら〈異端〉を拒絶することなく受け入れているからこそ、何気ない日常の中にドラマが生まれるのだ。こういったドラマツルギーは、日常を積み重ねることによりドラマを生み出すストーリー4コマのそれとは毛色が異なるように思う。言わば〈異端〉キャラの〈異端〉性そのものにドラマを見出すということだ。その意味で、今作のドラマツルギーはデータベース的であると言わざるを得ない。すなわち、ニワトリの親でなくきんぎょの親とひよこの子にはどんなドラマが生まれるか、ニワトリの体ではなくひよこの体を持ったおっさんではどうか、という順列・組合せと〈異端〉性の選択、そして選択されたものの解釈こそが、今作のドラマツルギーの根源ということだ。特に今作では前者が単純であるため、後者が優れていたと言えよう。そしてそれは、ありていに言えば「作者のセンス」というところになるのだろうか。いずれにせよ、4コマ漫画における方法論として、今作のドラマツルギーは特筆に値するだろう。

生物学的な〈異端〉ゆえに見出される、ひよこときんぎょの親子ドラマ。そして〈異端〉を受け入れることにより支えられている日常性。一風変わった、しかしどこか正統派であるような親子もの日常4コマとして読んで頂きたい作品である。

謝辞

献本を頂きましたイースト・プレスの小林様に深く感謝申し上げます。また、同人時代から今作を描き続けてきた作者、および今作を支え続けてきた他の読者の皆様、そして関係者の皆様にも、厚く感謝いたします。

関連ページ

インコ愛ゆえの「プリミティブな欲望と女性性」――内村かなめ『羽毛100%』

内村かなめ『羽毛100%』

インコ好きの作者によるインコ漫画の単行本。コザクラインコのサン♀とサクラ♂、オカメインコのひぃ♂とくま子♀、総勢四匹のインコとひとつ屋根の下で暮らす作者自身の日常をショートと4コマで描く。イースト・プレス『ハムスペ』およびそのリニューアルである『あにスペ』にて連載されていた表題作、および作者が直近三回の夏・冬コミにて発行したインコ同人誌の内容を収録。作者による描き下ろしおよび作者のインコ仲間であるみつみ美里・みささぎ楓季両氏によるゲスト寄稿もあり。なお、『あにスペ』自身は2009年9月に休刊している。

本作の楽しさは作者自身に尽きる。それは、作中に登場する作者の言動はもちろん、インコ四匹の行動に対する作者の解釈にまで及ぶ。いくつか例を見ていこう。

作者「な、な、な なによっ さっきまで言うこと聞かなかったくせにっ 魅せにきたのねっ!? 魅せにきたならおさわりOKってことよねっ かわいいわよ ばかばかっ」

(中略)

作者(やだっ 誘ってる!? 俺をつかまえたくば来いと!? このっバカバカ かわいい男めっ 釣られてやろうか!? ああっ 釣られるの 私!?)

内村かなめ『羽毛100%』7ページ

漫画の仕事中に作者のまわりをウロウロしながら自身をアピールするひぃに魅了される作者。緩みきった表情で息を荒げながら「おさわりOK」とのたまう姿は、相手がオスのインコでなく人間の男の子だったら逮捕されかねないレベル。この後にくま子のアピールも加わり、作者は仕事を放り出して二匹に陥落する。

作者「ふ…ふふ… サンちゃんは女の子かあ

だったらサン子ちゃんっ 言っておくことがある

サクラさん(♂)の本妻は私 あんたは2番目

内村かなめ『羽毛100%』48ページ(強調ママ)

サクラと同じケージに住むサンがメスだと判明したときに、彼女にライバル心(?)を燃やす作者。この後、作者はサクラと「室内デート」でスキンシップを取るが、サクラを追いかけてきて彼に毛づくろいをするサンに対して「かわいい」ながらも「浮気相手」という複雑な心境を見せている。

作者(この意味はなんだろ? くま子 女の子だし… そうだっ 人間の女の子にたとえると)

女子高生風くま子「あんたのこと いやだけどっ そばにいないと 気になるのっ いやなのよっ!! そんな気持ちよっ わかるっ? わかるわけないわよねっ あんただもんっ」

作者(これって ツ、ツンデレ!?)「くま子ー ういやつー♥」

そう勝手に解釈するとめっちゃラブリーなくま子♥

内村かなめ『羽毛100%』39ページ(強調ママ)

作者の肩に乗るも作者と目を合わせずに「キョヒ」の態度を取るくま子にツンデレを見出す作者。「勝手」な「解釈」だと自覚的でありながら、それでもインコの行動に人間のようなキャラ性を見出してしまう作者のインコラブっぷりが可笑しい。

こんな感じで、この作品では作者がインコ愛ゆえのストレートな欲望を随所で見せており、さらにそこには「かわいい男」「浮気相手」と言った女性的な面が垣間見える。そう、この作品においては、作者自身が「プリミティブな欲望と女性性」を体現しているのだ。ここに、作者の他の4コマ作品と、動物系実話である今作が接続される。掲載誌は萌え系4コマ誌と動物系実話誌という風に遠く離れているように見えても、それぞれの作品の魅力を支える基礎はその全てにおいて貫かれているのだ。これを作者4コマ作品の本質と言わずして何と言うのか。

インコ愛ゆえの「プリミティブな欲望と女性性」。雑誌がなくなっても、単行本が単巻完結でも、引き続き同人誌で、作者のおもしろおかしいインコな日常を追いかけて行きたいと思う。

大川マキナ『アリスのお茶会』/ガンガンWINGコミックス/スクウェア・エニックス

大川マキナ『アリスのお茶会』

スクウェア・エニックス『ガンガンWING』連載終了作品。ドラマの「リキュウ」に憧れて茶道を夢見る金髪の留学生・アリス。高校生になった今,彼女は茶道部の扉を叩くが――。

主な感想は読切掲載時連載終了時に書いたけど,単行本化を機にもう一度まとめよう。

本作をひとことで表すなら「茶道『少女4コマ漫画』」だ。そして本作の楽しみは,内面・外見ともに幼さを備えたアリスの幼さそのもの・夢見がちな言動・茶道へのあこがれと真摯さを「見守るように眺める」ことにある。例えば第一話のアリスを見てみよう。茶道部の扉の前ではリキュウを想いハートを浮かべ,歓迎会の野点では隣の「桜の木」に真面目に挨拶をし(しかも桜の木には顔がついている!),お茶碗を回す作法には茶道の「心のやりとり」を学ぶ。このアリスの姿を,例えば茶道の先達や彼女の親になったつもりで眺めれば,微笑ましさとある種の喜びが感じられるに違いない。

事実,作中にはそうした「見守る」視点がいくつも用意されている。茶道部の部長と副部長は,アリスに茶道の心得と作法,そして何より茶道を楽しむ気持ちを教えている。第一話で不作法さゆえに申し訳なさを感じたアリスに,部長は「心」こそ大事なのだと伝え,副部長もまた彼女に微笑みかける。部活動を通じて少しずつ作法を身につけて行くアリスの姿も確実にとらえ,彼女を褒め励まし,さらなる成長へと導いている。また,アリスの家族は,茶道の作法こそ分からないが,彼女が茶道を通じて得た喜びと成長に気づき,彼女の茶道への想いを強める役割を担っている。

この「見守る」視点こそが本作の良心であり,また,これによって本作のほのぼの・ふわふわとした空気が支えられている。もし,アリスの絶え間ない笑顔と言葉を「甘すぎる」と感じたなら,彼女から一歩引いてみるといいだろう。彼女をそれとなく,しかし温かく支える存在に気づいたとき,彼女の姿はそれまでとは違った形で生き生きと見えてくるはずである。

連載誌が休刊になってしまったのはが残念だが,私は今後も作者の活躍を楽しみにしている。次はその少女漫画的な感性を存分に発揮したラブコメ作品なども読んでみたいと思っている。「アリス~」には男キャラはほとんど登場しなかったが,同人作品『小夏と彼と夏祭り』『宝輔くんの夏』を読む限り,作者は魅力的な男子キャラを描き得るはずである。作者の他誌での登場を心待ちにしている。

おまけ

[2009年3月27日] 大川マキナ『アリスのお茶会』3冊

「あれ? アリ茶って書店フェアやってましたっけ?」「やってませんがそれが何か?」

おとなり感想

茶道をまったく知らなかった主人公のアリスが、ひとつひとつ茶道の作法を学んでいく様がまたいい。アリスの、茶道を一生懸命学ぼうとする初々しさ、瑞々しさが全面に出ています。時に笑える失敗を重ねつつも、かいがいしく奮闘する様子が実に微笑ましい。そして、そうして奮闘する合間にも、茶道独特の人を癒す空気を感じるシーンがまたいい。これぞ、侘び寂びの精神を目的とする茶道の真理(?)であり、かつこの作品のほのぼの癒し系の雰囲気とも完全にマッチしています。

たかひろ的研究館 アリスのお茶会

なんともほわほわでぽわぽわでらぶらぶであったかな作品ですね~。絵柄も話も 女の子たちもとにかく可愛い!キュート!ラブリー!なんでこれで1巻で終りなんだぁ~!(涙)。てっきり低年齢向け少女漫画雑誌に連載されてたのかと思ったけど違うんですね(笑)。

アリスのお茶会 | 百合のおもかげnext

茶道がお話の単なるアクセサリーではなく、大切なテーマのひとつとして扱われているところが面白かったです。トリビアに走るでも精神論をぶち上げるでもなく、門外漢でも思わず茶道をやってみたくなるような「茶道の良さ/楽しさ」をわかりやすく伝えてくれる作品だと思います。お作法の説明などのともすれば固くなりがちな話題を、アリスのリキュウ萌えがうまく和らげているところもいいなと思いました。

『アリスのお茶会』(大川マキナ、スクウェア・エニックス)感想 - みやきち日記

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施川ユウキ『サナギさん』3巻

施川ユウキ『サナギさん』3巻

ハルナ(私という存在は一体何?私は何者?)

私が自分について知っているコト それは全て単なる「記憶」という情報に過ぎない

自分が何者なのかについて絶対的確信は永遠に得られないし 記憶の中の自分に対して「もうそれでいいや」と妥協するしかないのだ

施川ユウキ『サナギさん』3巻 p.48「ハルナさん」 1~3コマ目

ハルナさんの登場により,ますます広がる施川哲学(?)ワールド。

施川ユウキ「サナギさん」は,秋田書店『週刊少年チャンピオン』にて連載中の4コマ漫画。天然ボケキャラのサナギさんと,毒舌キャラのマフユさんが,子供的な感性でもって,何でもない日常を過ごすという話。

3巻では,めばえキャラのイソヤマくん,哲学キャラのハルナさん,作図キャラの山田さんが新登場。その中でも特筆すべきはハルナさん。元々哲学っぽさが随所に見られる今作も,ハルナさんの登場により,彼女が代弁者となって,ますます施川哲学ワールドが広がっている。

しかしただの哲学で終わらないところがまた良い。上の引用は各段落が1コマに対応しているけど,4コマ目がまた面白い。

ハルナ「サナギさん 記憶の中の自分が宿題忘れたみたいなんだけど 妥協したくないから見せてもらえないかな?」

サナギ「!? なんかすごい!」

施川ユウキ『サナギさん』3巻 p.48「ハルナさん」 4コマ目

哲学と見せかけて,実はただの言葉遊びと屁理屈だった!でもこのギャップが面白いのです。言葉遊びと屁理屈に明け暮れていた僕の子供の頃を思い出させてくれるのです。これほどに懐かしさを感じさせてくれる作品はない。

巻末は施川氏のあとがきあり。作品構成の理論が語られていて,これも面白い。

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尾高純一『勤しめ!仁岡先生(1)』/ガンガンコミックス/スクウェア・エニックス

尾高純一『勤しめ! 仁岡先生』1巻

浅井「そうだ この方は年上だ アニキって呼べ!!」

仁岡先生「先生でいいんだよ」

上原「アニキぃ~」

仁岡先生「おめぇまで言うなぁ」

浅井「…それってアニキと呼んでいいのは私だけってことか?」

仁岡先生「ちげぇ」

尾高純一『勤しめ! 仁岡先生』1巻 p.24 「呼び方」

第一印象は「とてもガンガン的なギャグ漫画」。こういうの好きだなあ。

尾高純一「勤しめ! 仁岡先生」は,スクウェア・エニックスガンガンパワード』にて連載中の4コマ漫画。新任の生活指導の男性教師・仁岡先生は大の子供嫌い。そんな彼に,彼が担任するクラスの真面目なちびっ子不良(?)女生徒・浅井が惚れてしまって……,という感じの話。

帯の煽りにはある意味新しい(?)学園ゆるゆる4コマ!!と書かれているけど,むしろハイテンションバカギャグ4コマと言った方が正しいかも。ベタ惚れ発言を繰り返す浅井と,鋭くツッコむ仁岡先生を中心に,大量の会話が一本の4コマ内で何度も往復し,息もつかせないギャグが繰り広げられる。

登場キャラは総じてバカ。同じく仁岡先生に惚れちゃったクラスメイトの今江は,スケバンヨーヨー片手にギャル語尾の会話をする,古風だか今風だかよく分からない不良女生徒。ロリショタ好きの女性教師・河原先生は生徒たちや童顔の仁岡先生に熱く危ない視線を投げまくり。あげくの果てに校長先生までもが,女生徒を毒牙にかけんとするダメ教師。唯一まともそうなクラスメイトの女生徒・上原も成績問題児で仁岡先生はきりきりまい。そんな個性的なキャラたちが二人の掛け合いに割り込み,話を痛烈にかき回していく。仁岡先生も青すじが立ちっぱなしだ。

その一方で,女の子キャラたちの照れる姿が可愛い。これが背伸びしたいお年頃的な発言と相まって生意気可愛い。ロリショタ好きな河原先生の気持ちは分からなくも無いわ。

……と,落ち着いて書くとこんな感じだけど,私の第一印象は「とてもガンガン的なギャグ漫画だなあ」というものだった。特にたかなし霧香氏に通じるようなあのノリをひしひしと感じる。私はこういうノリが大好きだったりするので,読み始めた瞬間「これはいいかも」と思ったけど,実際その通りで,電車の中で読んで思わず笑いそうになって危なかった。同じ好みの人なら楽しめることうけあい。

カバー裏にはおまけ漫画あり。単行本同時収録作品として,読み切り掲載作品の「リトルラバー」「ガールフレンド」を収録。「リトルラバー」は作者曰くある意味『勤しめ! 仁岡先生』原点とも言えるものだそうだ。

また,『少年ガンガン』の誌上ギャグ漫画企画・GGグランプリに掲載された「偽れ! 田村先生」も収録している。この企画,毎月ゲストが2ページのギャグ漫画バトルを繰り広げるものだけど,4コマ漫画も数多く登場している模様。興味はあるけどガンガン方面に明るくない私は,いつかたかひろ的研究館さん辺りが詳しく書いてくれないかなあと他力本願的に思っていたりする。

カザマアヤミ『ちょこっとヒメ(1)』/ガンガンウイングコミックス/スクウェア・エニックス

カザマアヤミ『ちょこっとヒメ』1巻

この作品は,今年の4コマ作品の中で,最も大きな収穫のひとつだ。

「ちょこっとヒメ」は,スクウェア・エニックス『ガンガンWING』にて連載中の4コマ漫画。飼い主の所を飛び出し,迷子になってしまった仔猫,ヒメと,彼女を拾い,自分の家で飼うことになった少年,ナベ,そしてその周囲の人間や動物の日常を描いた作品。ただし動物キャラは,時と場合に応じて,その本来の動物の姿と,擬人化された猫耳少女などの姿の2通りで描かれる。作者のカザマアヤミ氏は,これが自身初の単行本となる。

一目見ただけで惹かれる可愛さ

この作品,まず目を惹かれるのは,淡いタッチで描かれたキャラ絵だろう。とにかく絵が上手い。そして可愛い。擬人化された動物たちの大きな瞳,やわらかな体のライン,豊かな喜怒哀楽の表情は,それだけで可愛さのあまりに悶えてしまう。

もちろん,絵が可愛いだけではない。キャラのセリフ,行動,その全てが可愛い。飼い主の手の上で安心しきった表情でお休みする姿,動物たちの間でじゃれあったり毛づくろいをしあったりする姿……。どれも見ていて和まずにはいられない。

既存の萌え4コマとは一線を画した快感 - 女の子的感性

その中でも特筆すべきは彼女たちの会話と,その中心にいるヒメの存在だろう。彼女は臆病だけど好奇心旺盛な猫だ。そして無邪気で,ちょっぴり大人ぶっていて,ひたすら女の子だ。彼女のセリフをふたつ引用しよう。上はヒメが道端の捨て犬(後に彼女は,後述するくっきーと分かる)と仲良くなった後,別れる時のセリフ。下はナベの家から外を眺めるヒメのセリフだ。なお,強調部は引用者による。

ワンチャン とってもやさしかった! いいことしった! ひとつアダルトになりました!!

カザマアヤミ『ちょこっとヒメ』1巻 p.11「なかよくなった」

さいきんのヒメは おそとをながめるのに ときめきをかくせません

くもがうごいたり はっぱがゆれたり とってもたのしいんだよ!

カザマアヤミ『ちょこっとヒメ』1巻 p.25

強調部に注目して欲しい。正直,ちょっと変わったセリフだとは思わないだろうか。私はこれらのセリフに,作者の女の子的感性を見る。事実,作者は女性なのだが,私がここで述べる「女の子的感性」は,「女性的感性」とは微妙に異なる。

例えて言うなら,女の子が数人集まっておしゃべりをするさまに似ているとでも言うべきか。背伸びしたいお年頃,目まぐるしく変わる会話のテンション,言葉の雰囲気を重視した会話のやり取り。彼女たちのセリフや,コマ内で多用されるハートマークからは,これがひしひしと感じられる。そしてこれが実に心地いい。

その心地よさも,実は彼女たちの戯れを見守る立場からのものではない。4コマという定形式で次々と繰り広げられる彼女たちの会話に,私たちはいつの間にか彼女たちの中に入り込んでいるのだ。この点で,この作品は既存の萌え4コマとは一線を画す。既に私たちは彼女たちの傍観者ではない。彼女たちそのものなのだ。

そして,以上の全ての要素が合わさったとき,そこから生み出される快感はすさまじい。ほんわかどころの話ではない。まるで脳が焼けつくような感覚だ。これには,男のくせになぜか女の子的感覚を強く受信してしまう,自分のアンテナにも原因があるかもしれないが――

それでもやっぱりあなたが好き - サブキャラの微妙な心理の面白さ

ヒメ以外のキャラにも目を向けてみよう。単行本1巻では,メインキャラとして,3組のペットと飼い主が登場する。まず,先述したヒメとナベ。次に,プライドの高いペルシャ猫,しろこと,その飼い主の大川陽太。最後に,ぼーっとした仔犬,くっきーと,その飼い主の坂下朝生(ともき)・莉夕(りゆ)兄妹だ。ちなみに坂下兄妹は双子である。

しろこと陽太はちょっと変わった主従関係だ。陽太は,その穏やかな表情とは裏腹に,しろこに対する愛情にはどこかサディスティックなものが感じられる。一方のしろこは,陽太のちょっと行き過ぎた愛情に困惑気味という感じ。しかもプライドが高く,陽太のことを逆に飼っているんだと思っている節がある。

一見でこぼこに見える彼女らだが,実はまんざらでもない。しろこは何だかんだ言って陽太のことを信頼しているし,陽太の態度の裏には,好きな女の子だからいじめたくなる,あの心理があるのだ。残念ながら1巻には,それを裏付ける彼らのエピソードが載っていない。これは2巻を楽しみにしていただきたい。

くっきーと坂下兄妹の方は,まず兄妹のやりとりに目が行く。妹の莉夕は双子なんだから一緒だっていーじゃん 私たち一緒なの!! と,兄にべったり。対する兄の朝生は,そんな妹のべったりぶりにちょっとうんざりしている感じ。

ここにくっきーが入ると,三者の関係が面白くなる。くっきーをストレートに溺愛する莉夕と,同じく飼い主バカだけど,妹の前ではくっきーに対して素直になれない朝生の姿が見えるようになる。くっきーはそんなのどこ吹く風で,いつでもほんわりしている。この微妙な関係が面白く,なぜかちょっと恥ずかしい。

まとめ

可愛くて個性的なキャラたちが繰り広げる日常を描いた,肩を張らずに読める作品。4コマ好きも,ほんわか系漫画好きも,猫耳好きも楽しめる作品だろう。全てに当てはまるなら間違く楽しめるだろう。

『ガンガンWING』では先日,小島あきら「まほらば」が最終回を迎えた。「ちょこっとヒメ」はその後釜として,4コマ作品ながらも,主力を張れるだけのポテンシャルがある作品だと思う。今後の連載にも期待したい。

補足,関連情報

単行本1巻には,「ちょこっとヒメ」の前身である「365日猫(ヒメ)!」も収録。こちらは『ガンガンWING』2005年7月号付録『4コマエディション』,および2005年9月号に掲載された作品。【追記(8/30 20:21)】単行本に収録されているのは『4コマ』エディションの方のみ。『4コマエディション』から本誌に連載化された作品はこの作品のみ。余談だが,『ガンガンWING』にはそろそろまたこういう付録企画をやって欲しいなと,私は思っていたりする。

アニメイトゲーマーズとらのあなでは,単行本発売を記念したフェアを開催中。単行本購入者には,それぞれ作者描き下ろしの,ヒメ,しろこ,くっきーのメッセージペーパーを配布。また,各店とも,同日発売の『ガンガンWING』9月号購入者にもポストカードを配布するなどの関連フェアを同時開催。とらのあな一部店舗では「ちょこっとヒメ」の複製原画展も開催中。また,作者のブログによると,作者のご当地である埼玉県の17店舗の書店でもフェアを開催。こちらでは三匹編のメッセージペーパーが配布される模様。詳細はそれぞれのリンク先を参照。

「ちょこっとヒメ」で作者に興味を持たれた方は,9月12日にモビーダ・エンタテイメントから発売の『月刊少年ブラッド』10月号を読んでみるといいかもしれない。同号には作者の読み切りストーリー漫画「ラストプラトニックブルー」が掲載予定。これは同誌創刊号に掲載された「キミに魅せる空」と同じシリーズの作品。

さらに興味を持たれた方は,作者のデビュー作を読んでみて欲しい。「ちょこっとヒメ」は作者の初単行本作品だが,デビュー作ではない。デビュー作は,『ガンガンWING』2003年10月号に,第2回スクウェア・エニックスマンガ大賞 佳作+審査員特別賞受賞作品として掲載された「かさぶたさん」だ。こちらは思春期の少女の少年に対する憧れを丁寧に,そしてコミカルに描いた作品。また,『ガンガンWING』2004年5月号には,第二作「その島のお話。」が読み切り掲載されている。両誌とも国立国会図書館に蔵書されているので,機会があったら読んでみて欲しい。

【追記(9/8 1:31)】他の方々の感想へのリンクは以下の通り。

施川ユウキ「サナギさん」2巻

施川ユウキ「サナギさん」2巻

「枢機卿(すうききょう)」…… 何者かよくわからないけど 機械の体持ってそうな字面だ……。

(施川ユウキ「サナギさん」2巻 p.102より)

秋田書店『週刊少年チャンピオン』にて連載中の4コマ漫画。哲学的な少女・望月サナギと,毒舌少女・倉田マフユの日常を描いた作品。

2巻では腹黒泣き虫少女のマナミさんや,謎ポエム少女のイマミヤさんなど,個性的で変なキャラがさらに登場。日常的に考えるどうでもいいようなことをあえて難しく考えてみたり詩にしてみたりする姿はを見ると,自分も小学生時代にこんなやつだったなあ,自分の周りにこんな奴いたなあと思わずにはいられない。

こんなノスタルジーを思い起こさせてくれることが,私がこの作品を大好きな理由だ。サナギさんたちを見ていると,意味不明な替え歌や言葉遊びが無性に楽しかったあの頃が思い出される。そんなときはいつも心地良くてちょっと悲しい。今ではそういうことはさすがに恥ずかしくてやらなくなってしまったけど,たまにはそういう時期があったことを思い出してみるのもいいかなと思ったり。

同じく施川氏の単行本「もずく、ウォーキング!」1巻とのコラボプレゼント企画の締切は5月17日。まだ応募されていない方はお急ぎを。

関連リンク

とりのなん子「とりぱん」1巻

とりのなん子「とりぱん」1巻

花に埋もれてみたいと思い

近づくほどに枝は遠のき 高みに空ばかりが透ける

ふりむけば また閉じてゆく 花の雲

あの中に埋もれられるのは 鳥ぐらいなものだ

(とりのなん子「とりぱん」1巻 p.14より)

講談社『モーニング』にて連載中の4コマ漫画。東北在住の作者が、作者の家の庭や近所にやって来る鳥たちの生活を描いた作品。この作品は第17回MANGA OPEN大賞受賞作品でもあり、受賞時に『モーニング』に掲載された話も単行本に収録されている。

大賞受賞時にも、私はこの作品が掲載された『モーニング』を買って読んでみた。そのときも「面白い」とは思ったけど、どこか煮え切らない感じがあった。だけどこうして単行本になってまとめて読むと、その面白さがビシビシと感じられる。

まず、鳥たちの描写がとにかく細かい。特に行動の描写の細かさ、そしてその表現には驚き。ヒヨドリたちのエサ争いの空中戦、必ずものかげに隠れてえさを食べるツグミの貧乏性、メジロがミカン汁をすする姿のつつましさなど、鳥たちの行動、そしてその存在が身近に感じられる。作者の観察力にはただただ驚かされるばかりだ。

そして鳥たちがこれまたかわいく描かれている。巨体のアオゲラは立派なダルマヒゲを持ち、メジロの目はいつもビックリしているかのようなパッチリさ。ヒヨドリはいつも青筋をたてて怒っていて、托卵されたモズはふてぶてしい顔をしている。見ればきっと、彼らの姿がとても愛らしく感じられるだろう。

この作品を支えているのは、作者の自然に対する憧れと、いわゆる「古きよき時代」へのノスタルジーだと思う。各話の最後が4コマではなく1ページ漫画になっていることがあるが、ここには作者の想いが強く込められている。その自然の描写と詩的な文章からは、鳥に対する作者の憧れと、ある種の懐かしさを感じずにはいられない。

鳥たちに笑ったかと思ったら、作者の言葉にしみじみとしてしまうこともある。これほど感情を動かされた4コマ漫画は久しぶりだった。

…と、長々と生意気なことを書いてみたけど、これは本当に素晴らしい作品です。読む前はちょっと疑っていた私なので、自信をもっておすすめします。

というわけで、素晴らしい日々さんのみんなで選ぶ4コマ漫画百選に登録します。みなさんもぜひご一読を。

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金澤尚子「ぴよぷー玉手箱」

金澤尚子「ぴよぷー玉手箱」

ベトナムで入院しました。

作者「英語しか通じなーっい 『吐き気』なんて英語でなんて言うんだよーっ」

(まじっくのカード) Nausea 吐き気

作者「いまさら遅ーっい」

友人(カードおぼえないからだよ…)

(金澤尚子「ぴよぷー玉手箱」 p.16より)

ぴよぷーこと金澤尚子氏が、自身のオタク的日常生活、東南アジア旅行記、恐怖体験、レトルトカレーレポートなど、幅広い事柄について描いたエッセイ4コマ漫画。

おそらく収録されたほとんどの作品が、金澤氏の同人サークル「ぴよぷー本舗」が発行した同人誌「ぴよぷー玉手箱」シリーズからの再録。昨年末の冬コミでは、このシリーズ最新の第10作目が発行。私が所持しているのは第2作目と第4作目以降全て。それらと単行本を比較したところ、第10作目の一部を除き、その全てが今回発売した単行本にも収録されていた。なので同人誌の「ぴよぷー本舗」を持っている人にとっては、新しい作品も無く物足りない内容かも。だけど初めて読む人にとっては十分満足できる内容だと思う。値段は1,000円とちょっと高いけど。

ご存知の方もいらっしゃると思いますが、金澤氏は無電源ゲーム(カードゲームとかTRPGとか)畑の方。この辺をかじったことがある自分にとって、この辺のネタにはニヤリとしてしまったり。

収録されている作品の中で個人的にもっとも好きなのは、レトルトカレーレポートの話(同人誌では第7作目に収録)。金澤氏の好物はカレーだそうですが、食事がめんどくさいということでレトルトカレーを結構利用してるそうな。

このレトルトカレーのレポートが、読んでいると本当に食べたくなる。漫画の中でおいしそうに食べる金澤氏の姿と熱の入ったセリフは、お腹が空いているときに読んだらカレーが食べたくなること請け合い。本当に。

と、こうやって書いている間にカレーが食べたくなってきた。明日の昼はココイチにでも行こうかな。

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